リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」~下野竜也&読売日本交響楽団公演(7月28日 ミューザ川崎)
今年もミューザ川崎の音楽祭「フェスタ サマーミューザ2010」のシーズンが到来。猛暑を吹き飛ばすべく、仕事帰りに下野竜也&読売日本交響楽団のコンビによるリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」を聴く。
2005年からスタートした「フェスタ サマーミューザ」は、メインディッシュのプログラム構成に絞ることで、首都圏のオケの演奏を手頃な価格(S席でも3000円!)で聴けるのが何よりのポイント。下野&読響は3年前の「フェスタ サマーミューザ2007」でやはりリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」を聴いている。
よく考えたらミューザ川崎とリヒャルト・シュトラウスは自分にとって縁があるようだ。昨年4月も、ファビオ・ルイージ&シュターツカペレ・ドレスデンの来日公演で「ツァラトゥストラはかく語りき」を聴いているので、今回、ミューザ川崎でリヒャルト・シュトラウスを聴くのは3度目となる。スペクタクルな演奏効果が求められるだけに、音響の優れたミューザ川崎で体感できるのは嬉しい。
「英雄の生涯」は、リヒャルト・シュトラウスが34歳の時の作品だという。タイトルからして、当初、すっかり晩年の作品とばかり思っていただけに、この「英雄の生涯」には、彼の早熟な才能を誇示しようというキャラクターの一面もどこか垣間見える。
その一つが4管編成という大編成によるスコア。ホルンが9本に、ハープが2台・・・、という所だけを見てもその規模の大きさが窺えるだろう。まさに大編成に強い読響ならではのプログラム。普段のオケ公演ではお見かけしない、ユーフォニウムも登場。どうやら吹奏楽界でも人気の高い外園祥一郎氏が出演しているようだ。
そして、もう一つは視覚的効果。「アルプス交響曲」の時はウィンド・マシーンが登場していたが、この日は「英雄の敵」の場面で、トランペットセクションの内3名が途中でステージを降り、舞台裏から演奏するシーンもあった。
下野氏は小柄ながら、身振りの大きい指揮振りで、オケをぐいぐいとコントロール。その絶妙なドライブは、さすが初代正指揮者に任命されただけの事はある。この曲のもう一つの主役は、ヴァイオリン・ソロだが、元ロンドン・フィルのコンマス、デイヴィッド・ノーランのソロもホールに美しく冴え渡っていた。
今回の公演では、本番前に指揮者の下野氏がリヒャルト・シュトラウスについて語ったプレトークも興味深かった。中でも、下野氏がチェコの名門、チェコ・フィルとレコーディングした「英雄の生涯」の新譜が、「レコード芸術」では酷評されていた事に触れていたのは意外だった。普通であれば触れたくない話題だろうが、自身、そんな評をあっけらかんと認めていた所にむしろ好感が持てた。自分自身はチェコ・フィルとの「英雄の生涯」を聴いていないが、少なくとも今宵の読響との「英雄の生涯」は、彼のリヒャルト・シュトラウス像が明確に打ち出されており、読響のレベルの高い演奏と共に、引き込まれるものがあった。
また、そのプレトークの最後には、ヴィオラセクションのメンバーが出演し、プレコンサートも披露。これが楽しかった!
「英雄」にちなんで・・・という事で、下野氏にとっての少年時代の「ヒーロー」だった日本の名作アニメ「宇宙戦艦ヤマト」をヴィオラパートのアレンジで演奏。原曲に忠実なアレンジとなっており、おまけにスネアとシンバルを兼ねた打楽器奏者が1名加わる事で、ノリも加わり、素晴らしい演奏になった。さすが、「なにわ《オーケストラル》ウィンズ2010」の最新CDでも「ウルトラマン」を披露しただけの事がある(^^) なお、今回の「英雄の生涯」の前には「祝典行進曲」という12歳の頃に作曲されたレア曲がプログラミングされていた。
そして、今回の公演ではもう一つのドラマがあった。プレコンサートでヴィオラセクションのメンバーが登場した際、下野氏が今夜の公演で定年を迎えるヴィオラ奏者を紹介。「英雄の生涯」が、オーケストラ奏者としての人生の節目となる・・・音楽家としてはある意味、感慨深いに違いない。
アンコールでは、そのヴィオラ奏者への送別の意味合いもあったのだろうか、リヒャルト・シュトラウスの「4つの歌」(作品27)より「明日の朝」の管弦楽版を演奏。デイヴィッド・ノーランのヴァイオリン・ソロに導かれ、しっとりと奏でられた。終演後には聴衆からも、ヴィオラ奏者に惜しみない拍手が送られ、思わず目頭が熱くなった。
「英雄の生涯」と、今宵、定年を迎えた一人の音楽家の人生がクロスする・・・ドラマティックで、感動的な一夜となった。
この記事へのコメント
滅多にお見かけしない光景を共有できてよいコンサートでしたね(*^_^*)
コメントをありがとうございました!
普段はあまり注目されない(?)ヴィオラパートですが、この日ばかりは、定年されるヴィオラ奏者をチラチラと見ていました。今宵、どんな想いを込めて演奏されているのだろう…と。終演後、ステージ袖に移動する他のメンバー達と一人ひとりと固い握手を交わす姿、そして、聴衆からの惜しみない拍手…その光景を見て、音楽家ってなんて幸せな職業なんだろうと思いました(^^)