震災復興祈願~阪神大震災の年に歌ったジョスカン・デ・プレの「Missa Mater Patris」
今回の東日本大震災に関連して、ここで自分にとって忘れられない出来事とディスクを記しておきたい。
それは今から16年前の1995年、阪神大震災の年に歌った、ある曲だった。曲名はジョスカン・デ・プレ(1440?-1521)の「Missa Mater Patris」。当時、まだ学生だった自分が所属していた合唱団では、毎年、東西四大学による合唱演奏会が催され、各々の合唱団による単独曲と4大学による合同曲のステージ構成となっていたが、阪神大震災を意識しての事もあったのだろう、この年の合同ステージで選ばれた曲がこのミサ曲だった。その本番がライヴ収録され、今も大切に保管されている貴重なディスクを、今回はエントリーしたい。
○ジョスカン・デ・プレ「Missa Mater Patris」より(編曲:皆川 達夫)
・Kyrie(キリエ)
・Gloria(グロリア)
・Credo(クレド)
・Agnus Dei(アニュス・デイ)
皆川達夫指揮
早稲田大学グリークラブ
慶應義塾ワグネル・ソサエティー男声合唱団
同志社グリークラブ
関西学院グリークラブ
(1995年6月17日録音、昭和女子大学人見記念講堂にて収録、非売品)
指揮は皆川達夫氏。1993年の立教大学グリークラブの定期演奏会で本人の指揮姿に接した事があるが、音楽史や「レコード芸術」誌等の音楽評論の分野でも著名な専門家だった皆川氏と共演できたのは今もって貴重な機会だった。
ジョスカン・デ・プレといえば、15~16世紀に活躍した大作曲家。しかもこの「Missa Mater Patris」は、皆川氏自身の編曲による男声合唱版。本人の得意とする宗教曲を約200名の男性がアカペラで歌う。その規模感だけでもメモリアルなイベントだった事が今さらながら窺える。
本番前日、慶應の日吉キャンパスで最初で最後の四大学合同での練習を行った時は、ハーモニーやテンポに崩れが出ないかの心配もあったが、そんな心配は無用だった。各々の合唱団の枠を込え、約200名のハーモニーが一つとなった瞬間は、皆川氏も本番での成功を確信したことだろう。
この曲には、4声から途中で多声部に分かれる複雑なポリフォニーも求められるが、聖歌隊のような清廉なスタイルではなく、男声ならではの重厚感を保ちつつ、時にテンポを可変させながらドラマティックな演奏を展開。合唱を通じて青春を追い求めた若者達の姿がそこにはあった。
なお、アンコールで歌われたのは、讃美歌としても知られるハインリヒ・イザークの「インスブルックよ さようなら」。それまで指揮をしていた皆川氏が、この曲を振り始めた途端に指揮を止め、テンポを合唱に委ねて、自らは歌い手をねぎらうようにステージ上をゆったりと歩いていたのが印象的だった。
先回までエントリーしたモツレクと同様、当時の自分にとっては、今回の東日本大震災に通じる「祈り」の姿だったのかもしれない。

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